ゴー宣DOJO

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高森明勅
2010.8.19 10:44

オープンカレッジの夏季集中講座

やや以前に、大学から社会人向け公開講座であるオープンカレッジでの開講を、打診された。

さまざまな負担は増えるが、自分の言葉をどのくらい「普通」の生活者の方々に届けられるか挑戦してみようと思って、承諾した。

オープンカレッジの場合、学部の学生と違って、単位だとか資格だとか卒業といった「ニンジン」はぶら下がっていない。

あるいは講演やシンポジウムなどの場合、聴衆は、はじめから私の話を聞くつもりで来て頂いているわけで、不遜な言い方になるかもしれないが、ある意味で私の言葉に耳を傾けて下さるのも、ほぼ当然のこととして期待出来る。

ところがオープンカレッジではそうではない。

予め私の名前を知らない人も多い。

ただ新聞のチラシを見て、開講する講座に関心を持つ方々が受講される。

その人々に、どのくらい期待を裏切らない話が出来るか。少し大げさに言えば、「温室」から出るつもりでチャレンジすることにしたのだ。

今年も春から通年の講座を2つ担当している。

が、事務方は熱心で、毎年、さらに別に春休みや夏休みなどにも集中講座をやれと言って来る。

さすがにこれは断りたいんだが、受講生の方の希望もあり、また事務スタッフの熱意にも心を動かされ、結局、自分の優柔不断さがここでも遺憾なく発揮されて、いつも引き受けてしまう。

で、この夏のテーマは「謎解き日本の歴史」。

1時間半×4コマで、次の4つの「謎」を取り上げた。

(1)聖徳太子は本当に実在したのか?
(2)『古事記』の作者は誰か?
(3)道鏡事件の真相は?
(4)終戦に際して何故、玉音放送が流されたのか?

(1)では、近年の聖徳太子虚構説を取り上げ、研究史を踏まえず、方法上の吟味を欠いては、一見アカデミックそうであっても、真に学問的な議論にはなり得ないことを伝えたつもり。

(2)では、最近の『古事記』の本文研究の成果をもとに、こんな話をした。同書が最終的に完成したのは普通に考えられている通り712年に間違いないのだが、じつは本文のほとんどは天武天皇の時代、より限定すれば681〜684年頃に書かれていたらしく、そうであれば本文成立の中心になった人物は…これ以上はネタバレになるので差し控えておこう。

(3)では、奈良時代に僧の道鏡が皇位を狙ったとされる事件を取り上げ、そのほとんど唯一の信頼出来る史料と言える『続日本紀』の記事は、よく読むと整合性に欠ける「ほころび」を見つけられ、そこから事件の真相に迫ることが出来る。
と、歴史学における史料批判のサンプルのようなものを披露してみた。

…と、ここまでの説明で時間をかなり費やしてしまい、(4)は、皆さんに「終戦の詔書」の振り仮名付きのコピーをお配りし、CDで玉音放送の現物を聞いて頂いて、駆け足でその内容と前後の事情を解説するのが精一杯だった。

あとは小林よしのりさんの漫画『昭和天皇論』を読んで下さいーと。この講座、締めくくりは何だか小林さんの宣伝みたいになってしまった…。

それでも受講生の感想を伺うと、やはり同時代だからか(4)が一番印象に残ったようだ。受講生は若い主婦もいらっしゃるが、定年後の60代70代の方が多い。

80代の方も何人かいらっしゃる。

皆さん、結構学問的な、少し込み入った説明にも興味を持ってついてこられ、感心する。じつに知的で、精神がお若い。

80代の方が「先生って平成の稗田阿礼ですね」なんて、『古事記』の講義で紹介した人物を早速使って、お世辞をおっしゃる。

その頭の回転には舌を巻く思いだ。果たして自分がその年齢になった時、それくらいの知的好奇心と精神の柔軟さを持ち続けていられるだろうかと。

ちなみに稗田阿礼は、ご存じの方も多いだろうが、天武天皇の舎人で、『古事記』を誦習した。

聡明で、どんな難しい文章でもスラスラ読み、一度聞いたことは決して忘れなかったという。

もちろん私などと比較出来る人物ではない。

オープンカレッジはやりがいのある、自分自身の成長の場であると考えている。

ーなんて書くと事務スタッフの思うツボなんだろうな、きっと。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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